チョン・キョンファ&テンシュテット&コンセルトヘボウ管によるベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲を聴いて
チョン・キョンファ&テンシュテット&コンセルトヘボウ管によるベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲(1989年ライヴ)を聴いてみました。
チョン・キョンファならではの、体当たり的な演奏が繰り広げられています。
とは言うものの、作品が作品なだけに、荒削りにゴリゴリと弾いてゆく、といったスタイルが採られている訳ではなく、端正な音楽づくりといったものが志向されています。この作品に相応しい、優美さや格調の高さが備わってもいる。
そのうえで、凝縮度の高さが感じられる。謹厳だとも言えそう。決して、開放的な音楽になっている訳ではないのであります。この辺りは、いかにもチョンらしいところだと言えましょう。
なおかつ、艶やかさを湛えてもいる。過剰にならない範囲で妖艶であり、情念的であり、パッショネートでもある。曲想によっては、頗る思索的でもある。この辺りもまた、チョンならでは。
そのような演奏ぶりによって、チョンの美質と作品とが、見事に融合されていると言いたい。
そんなチョンに対して、テンシュテットは、ドッシリと腰の据わった音楽づくりでソロを支えてくれています。それはもう、安定感抜群なバックアップぶりだと言えましょう。そのうえで、こちらもまた、ときに情念的であったり、思索的であったりする。更には、コンセルトヘボウ管による芳醇な響きが、この演奏に大きな魅力を添えてくれている。
チョン・キョンファ、テンシュテット、コンセルトヘボウ管、この三者の魅力が存分に詰まっている、見事な、そして、素敵なベートーヴェンであります。