ミルシテイン&フィストゥラーリ&フィルハーモニア管によるサン=サーンスのヴァイオリン協奏曲第3番を聴いて

ミルシテイン&フィストゥラーリ&フィルハーモニア管によるサン=サーンスのヴァイオリン協奏曲第3番(1963年録音)を聴いてみました。
NML(ナクソス・ミュージック・ライブラリー)に収蔵されている音盤での鑑賞になります。

ミルシテインならではの、端正な演奏が繰り広げられています。キリっとした表情をしていて、とても格調が高い。
それでいて、艶やかでもある。出だしの部分などは、かなり体当たり的で、情念的でもある。全体的に観ましても、煽情的な演奏ぶりが示されています。或いは、曲想に応じて夢幻的に奏で上げてもいる。そのような方向性が、この作品の性格には頗る似つかわしい。
とは言いましても、ケバケバしい音楽になっている訳ではありません。媚を売るようなところも、微塵も感じられない。そんなこんによって、毅然としていて、かつ、匂い立つような美しさを湛えた音楽が鳴り響くこととなっている。
そのうえで、全編を通じて覇気が漲っている。凛としていつつも、ロマンティシズムに溢れていて、熱気を帯びた音楽が奏で上げられているのであります。その辺りの知情のバランスに優れた演奏だとも言えましょう。
しかも、テクニックも万全。とりわけ、最終楽章には、目の眩むような鮮やかさがあります。それでいて、これ見よがしに技巧の高さを誇示するのではなく、作品を凛々しく再現するためだけに技術を奉仕させる、といった姿勢が貫かれていると思えてならないところが、なんとも尊い。
そのようなミルシテインに対して、フィストゥラーリによる指揮もまた、端正でありつつ、十分に情熱的な音楽を奏で上げてくれています。

ミルシテインの美質が存分に発揮されていて、ミルシテインのカラーで覆い尽くされているサン=サーンス演奏。
なんとも素敵な演奏であります。