キーシンによるショパンの≪バラード≫全4曲 他(RCA 1998年録音)を聴いて
キーシンによるショパンの≪バラード≫全4曲 他(1998年録音)を聴いてみました。図書館で借りてきたCDでの鑑賞になります。
当盤はキーシンが27歳になる年に録音されたもの。
収録内容は下記の通りになります。
≪バラード≫全4曲
≪子守歌≫
≪舟歌≫
≪スケルツォ≫第4番
さて、ここでの演奏はと言いますと、清澄な音楽世界が広がってゆくものとなっています。
キーシンは、「静謐の中の情熱」といったようなものを滲ませてゆくピアニストだと言えるのではないでしょうか。それは、外に向かって放射される情熱というよりも、内面へと染み込んでゆくような情熱だと言いたい。そのうえで、繊細にして、深沈とした佇まいを見せる音楽を奏でてゆく。要は、リリシズムの人。
このショパン集でも、多感で、繊細にして鋭敏な音楽が奏で上げられています。瞑想的な佇まいを見せることもしばしば。
ときに幽玄な音楽世界が出現することになる。それは特に、≪子守歌≫において顕著でありました。
その一方で、曲想に応じて、激情的な素振りを見せもする。そこでは、情熱が迸るような激流となって、音楽が紡ぎ上げられてゆき、なんとも激烈でもある。この点については、特に、≪バラード≫の諸作において、しばしば窺えました。
或いは、≪スケルツォ≫第4番の主部においては、敏捷性の高い演奏が繰り広げられていたりもする。
そのような、起伏の差が激しく、表情の幅の広い演奏となっています。しかも、それらで見せてゆく表情は、作品を逸脱するようなことが全くない。屈折したところが微塵もなく、とても率直な音楽になっているとも言いたい。それ故に、聴く者の胸にジッと染み込んでくる音楽となっている。
しかも、音の粒がクッキリとしていて、響きは澄み切っています。そのようなこともあり、なんとも言えず無垢な音楽として響き渡っている。
多彩な魅力を備えていつつも、ケレン味のない演奏となっている。それは、キーシンの感受性の豊かさ故でもあるのでしょう。
そして、そのような演奏ぶりによって、ショパンの魅力をシッカリと伝わってくる演奏となっている。
聴き応え十分な、素敵なショパン集であります。