ビシュコフ&コンセルトヘボウ管によるチャイコフスキーの≪悲愴≫を聴いて

ビシュコフ&コンセルトヘボウ管によるチャイコフスキーの≪悲愴≫(1987年録音)を聴いてみました。

ビシュコフ(1952-)は、2017年にチェコ・フィルの音楽監督に就いていますが、そのポストに就任する前後の2015年から2019年にかけて、同楽団とチャイコフスキーの交響曲全集を制作しています。ロシア生まれのビシュコフにとって、やはりチャイコフスキーは、レパートリーの中核を成す作曲家の一人なのでありましょう。
そのようなビシュコフが、1980年代の半ばにメジャーレーベルのフィリップスにレコーディングデビューし、当盤はその第4弾として録音されたのでした。録音当時、ビシュコフは35歳。

さて、ここでの演奏はと言いますと、骨太であるとともに、ふくよかさや芳しさも感じられるものとなっています。後者は、コンセルトヘボウ管あっての特徴でもあると言えそう。
そう、ここでのオケの響きは、なんとも芳醇なもの。決して派手な響きではないのですが、充分に艶やかで、底光りするような美しさを湛えています。
そのようなコンセルトヘボウ管を相手に、情感豊かで、かつ、スケールの大きな演奏を繰り広げてくれているビシュコフ。こちらもまた、決して派手な音楽づくりを施している訳ではないのですが、ドラマティックで力強い音楽を奏でてくれています。推進力に富んでもいる。
更には、表現の幅が広い。例えば第3楽章などでは、小気味よくてキビキビと音楽は運ばれている。その一方で、第2楽章では優美な雰囲気が漂っている。そんなこんなのうえで、変に粘るようなことはないのですが、濃密な音楽が奏で上げられている。時にセンチメンタルに、時にノスタルジックに、時にロマンティックに。第4楽章などでは、すすり泣きが聞こえてくるかのよう。
そして、これは曲の冒頭から当てはまることなのですが、なんとも骨太な音楽づくりが為されている。この点は、この演奏における性格の、ベースとなっているものだと言えそう。

若き日のビシュコフによる秀演と呼べそうな、聴き応え十分の素晴らしい演奏であります。