ウィーン・ムジークフェライン弦楽四重奏団によるシューベルトの≪死と乙女≫を聴いて

ウィーン・ムジークフェライン弦楽四重奏団によるシューベルトの≪死と乙女≫(1989年録音)を聴いてみました。

この四重奏団は、ウィーン・フィルのメンバーによって構成され、第1ヴァイオリンは長年の間コンサート・マスターであったライナー・キュッヒルが務めています。
そのようなこともあり、「小型ウィーン・フィル」といった趣のある演奏となっています。すなわち、艶やかで、かつ、まろやかで柔らかみを持った響きに彩られている。そのうえで、演奏ぶりは誠にしなやか。しかも、近年の(1980年代以降辺りの)ウィーン・フィルらしく、機能性も充分に備えた演奏となっています。
そう、この演奏は、典雅な美しさを湛えたものとなっている。もっと言えば、艶美とも言えるような美しさを備えています。
とは言うものの、情緒に流されるようなことはなく、逞しい生命力に溢れていて、力感に満ちたものとなっているのであります。「うねり」を伴って、音楽は進められてゆく。適度にエッジの立った演奏となってもいる。充分過ぎるほどに熱気を孕んでもいる。更に言えば、煽情的である。律動感に満ちていて、エネルギッシュで、ドラマティックな演奏でもある。そのような演奏ぶりが、この作品にはとても似つかわしい。
そのうえでやはり、艶やかな美しさが前面に押し出されていると言いたい。第2楽章(この弦楽四重奏曲の副題の由来となっている楽章で、歌曲の≪死と乙女≫の旋律に基づいた変奏曲となっている)を筆頭に、歌心に満ちた演奏となっていて、ロマンティシズムに溢れてもいる。

ウィーン情緒を存分に感じさせてくれながら、十分なる緊迫感を持っていて、情熱的で力感に溢れている演奏。或いは、ウィーンならでの味わいと、現代的な味わいとが融合された演奏だとも言えそう。その辺りのバランスが、実に絶妙。
聴き応え十分な、そして、なんとも魅力的な演奏であります。