ワルター&ニューヨーク・フィルによるシューベルトの≪未完成≫を聴いて

ワルター&ニューヨーク・フィルによるシューベルトの≪未完成≫(1958年録音)を聴いてみました。

私にとって、カルロス・クライバー&ウィーン・フィル盤と並んで、≪未完成≫のTop2を形成する演奏であります。この両者に甲乙を付けることはできません。
ここでのワルターによる≪未完成≫は、逞しい生命力に溢れていて、かつ、慈愛に満ちている演奏だと言えましょう。そのうえで、キッチリとした構成感が貫かれていて、暖かくて、凛々しくて、親しみ深い演奏。そのような性格が、複合的に折り重なっている演奏だと言えるのではないでしょうか。
更には、シューベルトならではの抒情味に溢れていて、歌心が豊かでもあります。それでいて、情緒に流されるようなことは微塵もなく、風格豊かな演奏となっている。表情がキリッとしてもいる。流麗にして、充実感タップリで、頗る豊饒な音楽が鳴り響いている。豊麗な音楽だとも言いたい。
ニューヨーク・フィルの響きがまた、とても豊かで輝かしい。凝縮度が高く、厚みも充分。しかも、それらが全くこれみよがしになっていない。

全体を通じて、ワルターの人間性の豊かさが滲み出ている演奏だと言えそうです。鳴り響いている音楽から、暖かみや、滋味深さや、懐の深さや、スケールの大きさや、といったようなものが溢れ出ている。
そのうえで、「素敵な音楽に触れることができた」という感慨を、ひときわ強く持つことのできる演奏となっている。
これはもう、惚れ惚れするほどに素晴らしい演奏であります。