ベーム&ウィーン・フィルによるブルックナーの交響曲第8番を聴いて

ベーム&ウィーン・フィルによるブルックナーの交響曲第8番(1976年録音)を聴いてみました。

これはベームが82歳の誕生日を迎える半年前の演奏ということになるのですが、なんと雄渾で覇気に満ちていて、輝かしい音楽を奏で上げていることでしょう。この演奏には、弛緩の「し」の字も見当たりません。むしろ、鮮烈と言っても良さそうであり、切迫感の強い音楽が鳴り響くこともしばしば。その一方で、実に彫琢が深い。
第1楽章の冒頭から、かなり熱気を帯びた演奏が展開されていますが、特に後半部分などは、極めて壮絶な音楽となっています。金管楽器による強奏や、ティンパニのロールなどは、頗る鮮烈でもある。
第2楽章も、その雰囲気を引き継いでおり、音楽が燃えさかっています。奏で上げられている音楽の圧力が凄まじくもある。主部での重戦車が猛進してゆくような気魄と、トリオ部でののどかな雰囲気(と言いましても、トリオのクライマックス部分での恍惚感は唖然とするほど)とのコントラストも称賛ものであります。
続く第3楽章も、ふだん他の演奏者たちで聴くことのできる音楽とは、随分と趣きを異にしています。楽章全体を通じて、かなり壮絶な演奏。そのうえで、音楽がサラサラと流れるような箇所は皆無であり、彫りが深い。そして、クライマックスの構築の素晴らしさなどは、目がくらむほどに鮮やか。なるほど、静謐な雰囲気からは随分と隔たりがあると言えましょうが、威厳にも不足していないのは流石であります。
最終の第4楽章ですが、やはり熱気を帯びていながらも、ときに柔らかさを見せるのが何とも面白い。第3楽章までに「柔らかさ」を感じるようなことがなかっただけに、この猛進系の楽章でそのような表情を見せてくれているのが、興味深いところであります。その一方で、呼吸の深い音楽にもなっているのが感服もの。貫録も充分。最後の高揚感も見事。
ウィーン・フィルは、このオケならではのしなやかでフレキシブルな音楽性によって、雄弁なベームの音楽づくりに見事に応えてくれているのが、素晴らしいの一語に尽きます。しかも、その音色は、なんとも輝かしくて、美しくもある。

ベーム晩年の、渾身のブルックナー演奏。そのうえで、率直でありつつも、懐の深さが感じられる演奏。
そんなふうに言えるような、素晴らしい演奏であります。