ノット&東京交響楽団によるR・シュトラウスの≪英雄の生涯≫を聴いて

ノット&東京交響楽団によるR・シュトラウスの≪英雄の生涯≫(2018年ライヴ)を聴いてみました。
図書館で借りたCDでの鑑賞になります。
丁寧に仕上げられていて、かつ、濃密な演奏となっています。
出だしから、艶やかにして、まろやかな音楽が鳴り響いています。オーケストラを丹念に磨き上げた結果、このような響きを獲得できたのだ、と言いたくなるようなコクのあるサウンドをしている。
とは言うものの、第2曲目の「英雄の敵」辺りまでは、バイタリティに溢れたものとは言い難い演奏になっていた。なるほど、流麗な演奏ぶりではあるのですが、外観が美しく整えられただけで、音楽がうねっていかない。そのような印象を持ちながら聴いていたものでした。
しかしながら、「英雄の妻」に入ると、様相は一変しました。音楽に流動性が備わってきて、生気を帯びた音楽が鳴り響くようになった。身のこなしがしなやかになった。そのうえで、この箇所に相応しい抒情的な美しさを湛えた演奏が繰り広げられていった。
ノット、興が乗ってきたのでしょう。
その印象は、続く「英雄の戦場」以降においても変わらない。実に感興豊かで、かつ、濃厚な演奏が繰り広げられているのであります。カロリーの高い演奏だとも言えそう。頗るエネルギッシュで、音楽が渦を巻きながら突き進んでゆく、といった様相を呈している。そして、とても豊饒な音楽となっている。
そのような演奏ぶりは、R・シュトラウスの作品には、誠に相応しいものだと言えましょう。
しかも、終曲の「英雄の引退」では、深い感慨の刻まれた音楽が奏で上げられていて、陰影が深くもある。それはもう、魂を揺さぶられるような音楽になっていると言いたい。
そんなこんなのうえで、輪郭がクッキリとしていて、明晰な音楽が奏で上げられている。
そのようなノットの音楽づくりに対して、東響がまた、実に献身的に応えてくれています。先にも書きましてように、ノットの磨き上げの見事さにも依るのでしょうが、アンサンブルの精度がとても高い。そして、シッカリとブレンドされた芳醇な音を、終始響かせてくれている。
ノットは2014年に東響の音楽監督に就任していますので、この≪英雄の生涯≫は、シェフの座に就いて5シーズン目の演奏ということになります。
このコンビの充実ぶりが刻まれている、聴き応え十分な、素晴らしい演奏であります。





