大友直人さん&ジャパン・ヴィルトゥオーゾ・シンフォニー・オーケストラによる第12回兵庫公演(ニューイヤーコンサート)を聴いて

今日は、兵庫県立芸術文化センターで、こちらの演奏会を聴いてきました。2024年の演奏会通い始め。
演目は、下記の3曲になります。
●三枝成彰さん 機動戦士ガンダム≪逆襲のシャア≫より「メインタイトル」
●サン=サーンス ヴァイオリン協奏曲第3番(独奏:服部百音さん)
●ベートーヴェン 交響曲第7番

ジャパン・ヴィルトゥオーゾ・シンフォニー・オーケストラは、日本を代表するオーケストラのコンサートマスターや首席奏者などトップクラスの演奏家を集結させたもの。チラシには、全日本選抜の”オールスター・オーケストラ”と謳われています。
参加している奏者につきましては、メンバー表を添付致しますので、ご覧頂ければと思います。なるほど、錚々たるメンバーが揃っています。

この楽団は、三枝成彰さんと大友直人さんによって立ち上げられ、1991年9月の試演を経て、翌1992年に第1回目の本格的な公演をスタートさせたとのこと。これまでに東京・大阪・名古屋や、横須賀・鎌倉でも演奏会を開いてきて、ここ西宮でのニューイヤーコンサートは、今回で12回目となるようです。
大友直人さんによる演奏会は、ちょうど1週間前に京響との第九を聴いて大きな感銘を受けたばかり。本日の演奏会でも、素晴らしい演奏を繰り広げてくれることだろうと期待しながら会場へと向かいました。
また、服部さんによる実演に触れるのは、2021年にメンデルスゾーンの協奏曲を、2022年にプロコフィエフの協奏曲第1番を聴いて以来で、これが3回目になります。以前に聴いた2つの実演では、感受性の豊かな演奏ぶりでありつつも、線の細さが感じられたものでした。本日のサン=サーンスの協奏曲ではどのような演奏を繰り広げてくれることになるのだろうかと、こちらも楽しみでありました。

それでは、この演奏会をどのように聴いたのか、書いてゆくことに致します。
まずは、前プロのガンダムから。
演奏時間は7,8分といったところでしょうか。序奏部は、神秘的な雰囲気が漂い、アニメのための「簡明な」音楽とは一線を画すものなのだろうかと思われたのですが、主部になると快活な音楽に切り替わりました。勇壮な音楽でもあった。それはいかにも、アニメのための音楽といった趣きをしていた。
主な旋律は2つで、1つは常にトランペットによって奏でられ、もう1つは弦楽器群によって奏でられていた。2つともに非常に親しみやすい旋律でありました。その2つの旋律が、交互に3度4度と奏でられる。しかしながら、その旋律がなにがしかの展開を見せる訳ではない。結果として、変化の乏しい音楽になっていて、音楽から「煌めき」のようなものが感じられなかったのが残念でありました。

続きましては、サン=サーンスについて。
服部さんによるヴァイオリン独奏は、ある程度、予想していた通りでありました。音楽性の豊かさはよく解った。体当たり的な演奏ぶりで、感興の豊かな演奏が繰り広げられていました。テクニック的にも破綻がない。この作品に必要な妖艶なまでの艶美な雰囲気も十分。
それでいて、音の通りが悪い。楽器の鳴りが悪いという訳ではなさそうなのですが、音がオケの中に埋もれてしまいがち。出だしは、sul G(G線のみでフレーズを奏でる奏法)で弾いていたのでしょうか、太い音がしていていました。「おっ、これは、今までに聴いてきた服部さんの実演とは異なる姿を見ることができるかも」と胸が躍ったのですが、それが続かなかった。
高音域は、艶やかで、凛とした風情にも不足ないのですが、今一つ、音楽が突き抜けてくるような形にならない。それ故に、もどかしさが残ってしまう。
なお、最終楽章のコーダ部の軽妙な演奏ぶりは、生き生きとしていて実にチャーミングでした。音の粒がクッキリとしていて、弾んでもいた。頗る印象的でした。
オケは、弦楽器に厚みがあって、威力十分。また、第2楽章での木管楽器の掛け合いが実に精妙。とりわけ、フルートとオーボエが表情豊かで聴き惚れました。クラリネットとユニゾンで弾く、服部さんのフラジオレット奏法も、実に美しかった。ここに関しては、シッカリと音が客席に届いていました。
そのような充実したオーケストラを相手に、大友さんは、はったりを利かせるようなことなく、端麗な音楽を奏で上げていた。それでいて、劇性にも不足はなかった。見事な音楽づくりでありました。

なお、アンコールはファジル・サイの作曲となる≪クレオパトラ≫。無伴奏ヴァイオリンのための作品でありました。
ジャジーで、前衛的でもあった音楽でした。
ピチカートが多用されていて、大きな役割を担っていた。但し、服部さんの演奏は、そのピチカートで「音楽の様相が見えにくい」ものになっていた、違う言い方をすれば拍節感の希薄な音楽になっていたのが、残念でした。
しかしながら、超絶技巧が組み込まれていながらも危なげなく弾きこなしていたのには、唖然とさせられました。服部さんのヴィルトゥオジティの高さを存分に見せつけられた、といった感じ。しかもそれが、嫌味になっていなかったのも、賞賛に値しましょう。ある種、憑依型の演奏家だと思え、そのような姿が好ましい形で現れていたとも言えそう。
しかも、音に艶やかさがあったことにも、魅了されたものでした。

さて、それでは、メインのベートーヴェンの7番について。
期待していた通りの素晴らしい演奏でありました。これまでに聴いてきた大友さんの演奏ぶりの延長線上にある演奏だったと言えそう。ケレン味がなくて、そのうえで、頗る充実度が高かった。
第1,3,4楽章に指示のあるリピートは、全て敢行したという姿勢も、いかにも大友さんらしい。(帰宅してスコアを見てみると、2回目のトリオの後半部分にもリピートの指示があり、これはカットしていたように思えます。)
更には、ホルンは倍管にせずに2人で吹いていたのも、大友さんらしい措置だと言えそう。それ故に、ホルンが突出するようなことがなかったことが、好ましかった。聴き手によっては、もっとホルンを目立たせたほうが、壮麗さが増して面白く聴けるのに、と思われるかもしれませんが、過度な芝居気のないホルンも良いものです。しかも、ホルンが個性的な動きをする箇所(例えば、第1楽章の132小節目)では、誇張のない範囲でシッカリと目立たせていた。その辺りの大友さんの誠実さやセンスの良さが、実に喜ばしい。
テンポはかなり速め。頗る颯爽としていた。しかも、決め所でタメを作ったりせずにサクサクと進んでゆく。全く粘らない。弛緩することもない。実に潔い演奏ぶり。
それでいて、素っ気なさは全く感じられない。それは、音楽が逞しい運動性を備えていたからでありましょう。キビキビとしていて、かつ、推進力が豊かでもあった。
しかも、楽譜に頗る忠実。第1楽章の真ん中を少し過ぎた辺りの254小節目(オーボエソロの47小節前)、「パーンパパン、パーンパパン」と「付点8分音符+16分音符+8分音符」で構成される音型に16分休符が入って「パンッパパン、パンッパパン」となる箇所でも、シッカリと休符が入っていた。ここにも、大友さんの誠実さを垣間見たものです。休符が入ったことによって、音楽に硬さが出て、キュッと引き締まることとなっていて、ベートーヴェンの望んでいたであろう音楽がシッカリと鳴っていた、という思いを強く持ったものでした。その直後の293,295小節目(オーボエソロの7小節前と5小節前)で、2nd.Vnが高音域でトレモロを刻む箇所も、鮮やかに目立たせるなど、やるべきことを的確にやり切っていた。そんなこんなの積み重ねや、演奏に対する姿勢や、といったものがあったからこそ、サクサクと進みながらも、彫りの深い音楽になっていたのでしょう。
わざとらしさが微塵もなく、清潔感に溢れていて、かつ、逞しさを備えていた演奏。そんなふうに言えましょう。最終楽章も、推進力に満ちていて、高揚感の高い演奏となっていた。
また、オケの性能も、頗る高かった。出だしの和音の弦楽器の響きの分厚さたるや、威力十分でありました。管楽器群や、ティンパニも、要所を押さえた演奏ぶりで、大友さんの音楽づくりに的確に応えてくれていた。
総じて、歯切れのよい、或いは、粒立ちの鮮やかなオーケストラ演奏だったと言えそうで、それがまた、大友さんの音楽づくりにマッチしていたと言いたい。しかも、オケの内側から自発的な熱気が込み上げてくるような演奏ぶりだとも感じられた。

オケによるアンコールは、阪神とオリックスの応援歌を繋ぎ合わせたもの。どうやら、三枝さんによるアレンジのようです。
昨年、関西地区を熱狂させた阪神とオリックスによる日本シリーズに対するオマージュと言える音楽。聴衆は大喜びでこの贈り物を受け止め、演奏に合わせて手拍子で応えていました。
(私は、阪神・オリックス以外の球団を贔屓にしていますので、手拍子に乗っかることは致しませんでした。)