セル&クリーヴランド管によるヒンデミットとウォルトンを聴いて
セル&クリーヴランド管によるヒンデミットの≪ウェーバーの主題による交響的変容≫とウォルトンの≪ヒンデミットの主題による変奏曲≫(1964年録音)を聴いてみました。
セル(1897-1970)による演奏は、あまりに精緻であるが故に、「完璧主義者的に過ぎて冷たさが感じられる」といったような趣旨の評を時おり見かけますが(特に、1980年くらいまでの評に、多かったように思います)、私はそのようには思えません。むしろ、キビキビとしていて、躍動感に満ちた音楽になっていて、人肌の暖かみが十分に感じられるものとして聞こえる。更には、細部にまで血の通った、生き生きとした演奏ぶりが示されている。必要十分なロマンティシズムを備えてもいる。
ここでの2曲についても、これらのことが、そのまま当てはまると思います。
実に精巧な演奏であります。そして、キリッと引き締まった、端正な演奏でもある。しかも、精彩に富んでいる。
20世紀に生み出されたこの2曲が、古典的な佇まいをした音楽として鳴り響いている。とても凛としている。
そのうえで、キビキビとしていて、力感は充分。贅肉が無く、直線的な仕上げが為されているようでいて、膨らみも充分に感じられます。音楽が弾力性を持っている。力み返ったようなところは全くないのですが、ダイナミックでもある。息遣いが頗る自然でもある。
その先に見えてくるもの、それは純度の高い「美」。
セルによる演奏、それは、不必要なものは一切含まれておらず、必要なものは全て備わっている。そんなふうに思うのですが、この2曲もまた、そのような演奏となっていると言えましょう。
セル、実に素晴らしい指揮者であります。