リヒターらによるバッハの≪音楽の捧げもの≫を聴いて
リヒターが指揮とチェンバロを担当し、ニコレ(フルート)やヒューブナー(ヴァイオリン)らが参加しているバッハの≪音楽の捧げもの≫(1963年録音)を聴いてみました。
謹厳にして、堅固な演奏が展開されています。
バッハの音楽に相応しい、規律正しさが備わっている。そして、とても毅然としている。揺るぎない構成のもと、堅牢たる建造物が聳え立っていく様を見つめているかのような感覚を覚えもする。聴いていて、襟元を正したくなるような厳かさがある。
そのようなこともあって、堅苦しさのようなものが感じられるのは確かでありましょう。とは言うものの、それ以上に、リヒターのバッハへの愛情の深さゆえなのでしょう、暖かみを帯びた音楽となっています。そう、とても人間的な暖かさが伝わってくる。そして、決して聴き手を突き放すのではなく、包み込んでゆくような演奏となっている。それも、そっと包み込むようなものではなく、固く抱き寄せるような強い力を持ったものとして。
そのうえで、凛とした美しさを湛えた音楽となっています。誠に格調が高い。凝縮度が高くもある。その一方で、後半のトリオ・ソナタでは、峻厳でありつつも律動感に溢れてもいて、かつ、伸びやかな演奏が展開されていて、リチェルカーレの旋律を伴っているナンバーでは歓びに満ちた音楽が鳴り響くこととなっている。
バッハの音楽世界にドップリと身を浸しながら、音楽を聴く歓びを味わうことのできる、実に見事であり、かつ、素敵な演奏であります。