トスカニーニ&NBC響によるベートーヴェンの≪英雄≫を聴いて

トスカニーニ&NBC響によるベートーヴェンの≪英雄≫(1953年録音)を聴いてみました。

トスカニーニらしい、毅然としていて、キリっと引き締まっていて、かつ、燃焼度が高くて、輝かしい演奏が繰り広げられています。凝縮度が頗る高くもある。
速めのテンポで、グイグイと、そして、逞しく押し通してゆく、ここでの演奏。推進力が誠に強い。その様は、男気に溢れたものだと言いたい。それでいて、すっ飛ばしながら進んでゆくような素振りは皆無で、音楽をトコトン豊かに歌い上げている。そのうえで、燦然たる輝きを発している。
ここで聴くことのできるのは、まさに、ヒロイックな≪英雄≫。
しかも、硬質でいて、しなやかな身のこなしをしている。伸びやかにして、晴朗で快活。折り目正しくて、整然としてもいる。そう、ディオニソス的な熱狂を孕んでいつつも、アポロン的な端正さを持った演奏となっているのであります。音楽が湛えている表情が、とても凛としてもいる。

力感充分で、雄渾で、しかも、明晰にして明快な演奏ぶり。その辺りの知情のバランスが抜群だと言えましょう。
いやはや、なんとも見事で、充実感たっぷりの、そして、聴き手を惹きつける力の強大な、素晴らしい演奏であります。