ベーム&シュターツカペレ・ドレスデン(SKD)によるシューベルトの≪ザ・グレート≫を聴いて

ベーム&シュターツカペレ・ドレスデン(SKD)によるシューベルトの≪ザ・グレート≫(1979/1/12ライヴ)を聴いてみました。

1934~43年の9年間に音楽監督を務めていたなど、終生にわたって親密な関係にあったベームとSKDでありましたが、ベームが逝去する2年前に催されたこの演奏会が、このコンビの最後の演奏会となりました。
(同時期に、モーツァルトの歌劇≪皇帝ティーとの慈悲≫全曲をセッション録音しています。そちらのレコーディング・データは、1979/1/6-24,3/19,20となっていて、この演奏会の2ヶ月後まで続けられていることとなります。)

前述していますように、この演奏は、ベームが87歳の誕生日を目前にして逝去する2年前のものとなるのですが、なんとも気宇が壮大で、逞しい生命力に満ちています。
そのうえで、ライヴならではの感興の豊かさが感じられもする。例えば、第1楽章の序奏部から主部へ勢いよくなだれ込む表現などは、覇気の漲っている演奏ぶりが示されていて、誠に壮健な音楽となっています。同じく第1楽章の結びの箇所や、最終楽章の終結部などでは、壮麗で輝かしい音楽が奏で上げられています。
しかも、ガッシリとした構成感に溢れている。それはもう、揺るぎないほどに。そして、壮麗な建造物を仰ぎ見るかのような音楽となっている。そのような音楽づくりが、この作品が持っている壮大にして頑健な性格にピッタリ。
更に言えば、硬質の結晶を見るかのような美しさを湛えている。そう、キリッと引き締まっていて、純度の高い音楽となっているのであります。このことは特に、第2楽章において強く感じられる。
それでいて、シューベルト特有の抒情性にも不足はない。武骨なようでいて、音楽は自然な息遣いをしている。スケールの大きさの中に、健やかさや晴れやかさが感じられる。この辺りがまた、この作品が持っている性格に相応しい。そして、頗る伸びやかな演奏となってもいる。
そのようなベームによる音楽づくりに対して、SKDが凛としていて清潔感溢れる美音を奏でてくれているのがまた、なんとも魅力的。前述している「硬質の結晶を見るかのような美しさ」は、SKDの貢献度が高いとも言えましょう。このオケの体質によって、音楽全体が、キリっとしていて、かつ、芳しくて美しいものとなっています。

壮麗にして、コクが深く、しかも、感覚的な美しさにも不足の無い演奏。それは、ベームとSKDと、この作品の幸福な出会いに依るものに他ならないと言えよう。
いやはや、なんとも見事で、惚れ惚れするほどに素晴らしい演奏であります。