ロストロポーヴィチ&ワシントン・ナショナル響によるショスタコーヴィチの交響曲第5番の旧盤(DG 1982年録音)を聴いて

ロストロポーヴィチ&ワシントン・ナショナル響によるショスタコーヴィチの交響曲第5番(1982年録音)を聴いてみました。
ロストロポーヴィチは、1980年代から90年代にかけてエラート・レーベルにショスタコーヴィチの交響曲全集を制作していますが、当盤は、その全集に収められているものよりも以前に録音された演奏になります。
なんとも鮮烈な演奏となっています。それでいて、過剰に情念的であったり、粘着質であったり、といった音楽になっていない。それよりももっと、明快で、克明な音楽が奏で上げられている。
全編を通じて、ロストロポーヴィチならではの、表現意欲の旺盛な演奏が展開されていると言えましょう。しかも、音楽が空転するようなことはない。なんとも実直な演奏が展開されています。深い共感が寄せられているとも言えそう。更には、十分に真実味を帯びていながらも、必要以上にペシミスティックになるようなことはない。そのうえで、骨太で逞しい生命力を宿している音楽が、そして、雄渾な音楽が、奏で上げられている。
そのような音楽づくりが、誇張のない形で為されている。息遣いが豊かでありつつ、流れや佇まいやといったものが、とても自然でもある。そんなこんなもあって、この作品の音楽世界に安心して身をゆだねることのできる演奏となっている。
更には、最終楽章では、決してお祭りになるようなことはないものの、大きなクライマックスが築かれることとなっている。これは最終楽章に限ったことではないのですが、必要十分にドラマティックでもある。
作品の魅力とロストロポーヴィチの魅力の双方を存分に味わうことのできる、素敵な演奏であります。





