ゲルギエフ&ウィーン・フィルによるチャイコフスキーの交響曲第5番を聴いて
ゲルギエフ&ウィーン・フィルによるチャイコフスキーの交響曲第5番(1998年 ザルツブルク音楽祭でのライヴ)を聴いてみました。
ゲルギエフ&ウィーン・フィルのコンビは、1998年から2004年にかけてチャイコフスキーのいわゆる後期3大交響曲集をフィリップスにライヴの正規録音で制作をしていますが、この第5番は、その冒頭を飾る録音となっています。
さて、ここでの演奏はと言いますと、推進力や、逞しさを宿しとものとなっています。キビキビとしていて、躍動感が備わってもいる。
それでいて、それ以前のゲルギエフによる演奏に顕著だった野性味のようなものは、かなり薄い。それよりももっと、洗練された音楽が鳴り響くこととなっている。それは、ウィーン・フィルのまろやかで優美な響きに依るところも大きいのでしょうが、それよりも、ゲルギエフの変貌に依っているように思えます。直截的で尖鋭な演奏であるというよりも、奥行き感があって、丸みを帯びたものとなっている。このことは、2000年代に入って以降のゲルギエフの多くの演奏から感じ取ることができるようになってゆくと看做しているのですが、そのハシリのようなものを、この演奏から聴き取ることができる。
そのような性格を帯びていながらも、充分にドラマティックで、力強い演奏が展開されている。エキサイティングでもある。更には、最終楽章のコーダの箇所などでは、とても昂揚感の高い音楽が奏で上げられている。そのようなこともあって、演奏後には、聴衆は大いに沸いています。
ゲルギエフが転換期を迎えようとしている時期の、貴重な記録。それも、ウィーン・フィルという極上のオケとの共演という形での記録。実に興味深い音盤だと言えましょう。
それとともに、ドラマティックな演奏ぶりの中にも、まろやかさやコクの深さを湛えたものとなっていて、聴き応え十分な素敵な演奏となっています。