エッシェンバッハ&パリ管によるツェムリンスキーの≪抒情交響曲≫を聴いて

エッシェンバッハ&パリ管によるツェムリンスキーの≪抒情交響曲≫(2005年録音)を聴いてみました。独唱者はシェーファー(S)とゲルネ(Br)。
NML(ナクソス・ミュージック・ライブラリー)に収蔵されている音源での鑑賞になります。

この作品には、シノーポリ&ウィーン・フィル盤、マゼール&ベルリン・フィル盤、シャイー&コンセルトヘボウ管盤といった、名門オーケストラによる魅力的な音盤が存在し、それぞれのオーケストラの美質を堪能することができますが、当盤にもまた、パリ管の魅力がぎっしりと詰まっています。
パリ管は、最もカラフルな響きを持つオーケストラの一つだと言うことができましょう。そのようなパリ管を通じて、この作品に籠められている、新ウィーン楽派の黎明期を迎えようとしている時期に生み出された耽美な音楽世界に浸る。この演奏の魅力を一言で言い表すとするならば、そのような表現になるでしょう。

なんとも色彩感に溢れたオーケストラ演奏となっています。夢幻の中を漂うというよりは、現実的な艶やかな響きで満たされている音楽に身を浸す、といった感が強く、美麗で絢爛とした響きに恍惚としてくる。
そのようなパリ管をリードするエッシェンバッハは、過度に音楽を煽るようなことはなく、じっくりと腰を据えながら、精巧に作品を描き上げてくれています。そのために、音楽が空々しくなるようなことはない。ある種、精悍な演奏ぶりだとも言えそう。しかも、例えば、第5楽章などでは充分にドラマティックであり、作品のツボをしっかりと押さえた演奏ぶりとなっている。

シェーファーとゲルネの2人の歌手もまた、実に魅力的。滑らかで艶やかな歌いぶりで、声の美しさも飛び切りであります。そして、ともに知的な歌を示してくれている。
そのような中、シェーファーの玲瓏な歌い口、ゲルネのまろやかで深々とした歌いぶりに、心が打たれる。

この曲のマイベスト盤はシノーポリ&ウィーン・フィルであり、それはまさに、陶酔の世界を味わうことのできる妖艶な演奏となっているのですが、ここでの、絢爛美麗で、かつ、精悍な表情をしている演奏もまた、なんとも素敵であります。